公共事業によってできあがったものが、将来世代にとっても役に立つものであれば、将来世代は負担どころか、その分だけ便益を得るのである。 他方、完全雇用時に国債発行による財源で公共事業を行えば、民間によって有効に使われている分を、非効率な公共部門が取ってしまうために、経済全体で生み出す物の価値が減少する。
おまけに、好況期では消費意欲も高いために、現在世代が国債発行分だけ余分の所得を得れば、そこから消費に回す割合も大きい。 その結果、二重の意味で将来世代に残される分は必ず減少し、大きな負担が残ることになる。
国債による歳入の使い道が減税であれ、公共事業であれ、国債発行がそのまま将来世代の負担になるかならないかは、景気の状態に決定的に依存することがわかる。 国債発行と財政出動によって生み出されるいろいろな所得が、好況時に支出されるならば、確かに実質的な将来世代の負担になるが、余剰生産力が存在する時期に支出されるかぎりは、将来世代の負担にはならないのである。
国債発行による財政出動の将来世代への負担論に関する以上の議論は、政府が余分な再分配政策を一切行わないことを前提に成立していた。 ここで、政府が再分配を行うことまで考慮すれば、以上の話はさらに簡単になる。
ようするに、不況期に公共事業によって余剰資源を活用することができれば、日本全体で生み出される物の総価値を増やすことができる。 後は、新たに生み出された物を、現在世代と将来世代に適当に分配すればよいのである。
これに対して、好況時に民間部門より効率の悪い公共事業を行えば、民間活動と公共事業との生産性の差分だけ、総生産が減少する。 そのため、将来世代と現在世代にどのように再分配政策を行っても、少なくとも一方は必ず損をするのである。
したがって、不況期に将来世代の負担を持ち出して、だから財政出動はしないと主張することは、「合計でより多くの物ができるのに、できた物の分配をいつまでも調整せずに放っておけば、将来世代が損をする可能性がわずかあるから、それなら何もしないで、現在世代も将来世代もともに損をした方がいい」という議論である。 ところが、すでに明らかにしたように、余剰生産力がある間に現在世代が国債発行分の購買力を使い切ってしまえば、何も所得分配の調整をしなくてもよいのである。
問題があるとすれば、現在世代が購買力を完全雇用達成時までとっておく場合であり、そのときには、その分だけを現在世代に増税すればよい。

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